八重歯　　　August 2013

日本ではいろいろなグループが何月何日は何の日と決めることにしています。例えば、 8月8日は全国珠算教育連盟がそろばんを弾く音"パチ(8)パチ(8)"の語呂合わせをしてそろばんの日としています。8月8日は笑い声"ハ(8)ハ(8)"に合わせ笑いの日を作る会によって笑いの日になっています。そして日本臨床矯正歯科医会は"８（ハ）"が並ぶ日だからと8月8日を歯並びの日としています。ところがこの日は八重歯の日ともされていて八重歯好きによる八重歯イベントもあります。この女性の八重歯はかわいいという考えは日本独特のものです。アメリカにもまた日本の隣の韓国にもこのコンセプトはありません。私にとっては日本で生まれ育っているが、高校生からはアメリカに住んでいるのでどうも解りにくい感覚というところです。もちろん歯科学的には良くありません。そこで、今回はこの歯並びに対する文化的な食い違いについて書かせていただきます。 　　　

八重歯というのは顎が小さいため歯がまっすぐに並んで生える事が出来ず、だいたいは上顎の犬歯(糸切り歯)が前に突き出している状態を示します。主に左右のどちらかの上の犬歯がちょっと前に突き出している状態の事で若い女性の八重歯はかわいいという考えが日本には独特にあります。もちろん近頃は女優やアイドルの方たちも歯をまっすぐにするようになってきているので、江戸時代までは好ましく思われていたお歯黒のように昔のことという事になっていくのかも知れません。しかし逆に日本ではわざわざ付け八重歯という物を歯に付けて歯をかわいくするという事が存在し、また前にも述べましたように八重歯のイベントまであります。 ちょっと調べてみると、日本人にとっては八重歯には"未完成の美としての魅力があるのだろう"という事をある日本の歯科医の方が論文に書いています。歯の生え変わり時期の歯並びを思わせる幼さの象徴が残されていてそれがつまり大人のようで幼さが何となく伝わりかわいいと見ているなどという説もあります。

皆さんもご存知だと思いますが、アメリカでは良い歯並びはとても大切にされています。 2012年のあるアメリカでの調査では千人以上の人たちに歯並びの良い人と歯並びの悪い人の顔写真を見せ、この人たちの事をどう思うかという事をデータにしています。きっとお解かりだと思いますが、もちろん歯並びの良い人のほうが良い仕事についていて、成功しているというイメージがあり、しかもこの千人の中の40%の人たちは歯並びの悪い人とは2回目のデートはしないだろうと答えています。しかも73%の人たちは歯並びの良い人をそうでない人よりも信頼すると答えています。ただこの調査はあるリサーチ会社に歯科矯正の装置のインビザラインを作る会社が依頼しておこなった調査なので私は完全にこのデータを信用して良いとは思いません。かといって、私の今までのアメリカでの生活そして歯医者としての経験からして、アメリカ人(実際は中流階級以上のアメリカ人というべきですが)は歯並びをとても気にされます。

文化の違いはそうですが、歯科医学的には八重歯は良いとは言えません。良く噛めるため、また虫歯や歯槽膿漏にならないためにはどう考えても歯並びが良いほうが理に適っています。歯科の世界では咀嚼の学問もあり、犬歯の位置はとても大事だとされています。歯をもし全部本当に理想にあった位置におくことが出来ると、口内で歯車のように、いやそれ以上にすごくうまく歯は噛み合い、その中で犬歯は大きく、歯根も他の歯よりも長く、顎を左右に動かす時に犬歯があるため他の歯に力が大きく伝わらないですむようになっています。むずかしい 生物学、物理学を説明してもしょうがないですが、歯並びが良く、犬歯が八重歯の状態でない事はとても噛む動作、顎を動かす動作に大事なのです。しかも歯並びが良いほうが歯並びが悪いよりも歯の掃除はしやすく、虫歯、歯槽膿漏にはなりにくいのです。

私は日本では八重歯がかわいいという時代があったが今はだんだんこの文化は無くなってきているのではないかと思うのですが、逆に文化とか価値観というものは簡単に変わるものではありません。私自身にとっては私は歯医者であり、またアメリカ生活も長く、この八重歯がかわいいという感覚は何となくしかわかりません。はっきり言うと、日本の八重歯美人とされる女性の顔写真を見ると、歯並びをまっすぐにしたらもっと美人なのにと思ってしまいます。しかし、私はそれとともに他の人の価値観や文化を尊重する事は大事だと思っています。歯のいろいろな問題の解決、また定期検診、クリーニングのためには是非お電話下さい。